『釣りと自分』遠い記憶・・・ 22 『いつ頃だろうねーー 覚えていないな』 タバコを灰皿に押し付け、最後の煙を吐きながら渓太は言った。 思い出した様に、記憶を整理する様に少し間を置いてから、 『始めたのは分からないけど最初の1匹は覚えているよ。 確か、場所は狩野川だった。いや、間違いない。親父と小さい頃に 行くのは決まって狩野川だったから。』
鮎釣りを始めてまだ7年位の僕は、少し昔の鮎釣りや沢山の川を知らないが、 昔は鮎釣りと言ったら、関東の釣師はみんな狩野川に行ったものさ。 と、色んな人から聞いていた。
『そうか、狩野川かー。なんか僕は狩野川って、いい釣りしたって記憶が無いんだけど、そんなに昔は良かったの』
解禁の時に少し良い思いをするけれど、他の時に行っても小さい鮎しか釣れなかったり、流れの強い通称、瀬と呼ばれるポイントが好きな僕は、あまり詳しくない狩野川に興味が無かった。
『どうなんだろうねー。良い・悪いが分かる程の腕前では無かったし、 なんせ、さっき言ってた始めての鮎って多分、4歳頃だよ。』
『そんな小さい頃からやってたのー。』
『やってたというか、やらざるを得なかったというか・・・ まぁ鮎はとにかく沢山いたと思うよ。』
そう言えば、彼の親父さんは鮎釣りの名手だったと聞いている。 だから、そんなに小さな頃からやっていたのだろう。 そして、遠い記憶を探しながら、彼は話を始めた。 |